製品概要と当社との関わり
ベルトーロ整流器とは
ベルトーロ整流器とは、1918年に椎尾 詷(しいお ひとし)氏によって発明された、日本初の国産機械式整流器です。椎尾氏が特許出願を行い※、1920年10月に認可されました。
三相交流電圧を入力し、多相変圧器と同期電動機を組み合わせて、低圧・大電流の直流に電力変換する直流電源装置となっています。その特性から、めっき用電源をはじめ、アルマイト用、映写用、バッテリ充電用途等の直流電源装置として幅広く利用されました。同期電動機で整流子またはブラシを運転して整流調整を行う整流器として、ベルトーロ・トランスバータ・ザイフェルト整流機・コットレル整流機の4種が実用化されています。
ベルトーロ整流器は、電力変換器を意味する「コンバータ」、「インバータ」に共通する「バータ」をエスペラント読みにしてベルトーロ(VERTORO)と命名されました。
現在では、半導体素子を用いた整流器が主流となっていますが、ベルトーロ整流器は日本の電気技術史において重要な役割を果たした装置とされています。
特許第37232号(出願:1918年(大正7年)7月15日/ 認可:1920年(大正9年)10月7日)、国内のみならず、アメリカとイギリスでも特許を取得。

発明者である椎尾詷氏
椎尾詷(しいお ひとし)は、1895年に愛知県西春日井郡のお寺の長男として生まれました。
1920年に、東京帝国大学理学部数学科を卒業後、旧制第八高等学校(現名古屋大学)にて教鞭を振るう傍ら、旧制名古屋高等工業学校(現名古屋工業大学)の清水勤二教授と共同でベルトーロ整流器の実用化に向けた共同研究にも注力しました。
1936年に株式会社中央製作所の創業に大きな影響を与えました。
彼の代表的な発明である「ベルトーロ1号機」が誕生した1929年以降、整流器は進化を続けてきました。

中央製作所とベルトーロ整流器の関わり
ベルトーロ整流器は、旧制名古屋高等工業学校(現 名古屋工業大学)の実験室で改良を重ね、1931年に3号機が市場にはじめて出荷されました。
その3号機を作成した製作所が、当社の前身である瑞穂製作所です。


中央製作所は、ベルトーロ整流器を製造販売する目的で1936年に設立された特許独占会社であり、産学ベンチャー企業としてスタートしました。
主な納入先
戦前
- 海軍省:1937年9月受注
- 日本放送協会(現:NHK):1938年6月受注
- 逓信省(現:NTT):1939年2月受注
- 土肥金山:1939年2月受注
- 古河電気工業:1939年11月受注
戦後
- 佐藤仙十郎工業所(大阪)山内鍍金(名古屋)復興10台(各5台) めっき用
- 岐阜自由劇場(岐阜):1947年1月 映写機用
- 敷島パン:1947年5月受注 電気自動車充電用
- 野村鍍金(大阪):1954年10000Aベルトーロ めっき用
ベルトーロ整流器の仕組み
原理
交流電力を直流にするために、3相交流電力を多相交流電力に変換し、これを整流子に供給することで、回転電位を発生させ、同期電動機と同期させます。
主変圧器は3相となっていて、特殊な結線法によって2次側に24相または36相の電圧を供給する仕組みです。
命名の由来
「コンバーター」「インバーター」に共通する「バーター」をエスペラント読みにしてベルトーロ(VERTORO)と命名されました。
日本名 | 回転刷子型変流器 |
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商品名 | ベルトーロ |



構成
24相、36相等の多相変圧器を使用することで、高いリップル率を実現しました。回転子回路での極性切替えが容易ですが、構造が複雑で回転刷子の定期交換が必要です。

ベルトーロ整流器の動画
稼働と波形測定
回転刷子取り外し
集電部磨き
撮影協力:(株)東伸化工・中田社長、明石工業高等専門学校・秋山教授
ベルトーロ整流器の歩み
これまでの歩み
ベルトーロ整流器を製造販売するための特許独占会社として設立された中央製作所を通して、多数の改良特許が権利化されました。
開発業務を通して得られたアイディアが改良特許と認められてきた歴史は、半導体技術の黎明期である1930年代に東洋の技術的後進国であった日本において、米国・英国の海外特許も取得した上で技術独占の形態を保持しつつ事業を展開した経緯は現在の産学ベンチャー企業の魁でもあります。
主な特許に関するリスト(一部抜粋)
国名 | 種別 | 番号 | 分類 | 出願 | 公告 | 公告 | 発明者 | 特許権者 | 題名 |
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日本 | 特許 | 37232 | 第93類 | 大正7年7月15日 | ー | 大正9年10月7日 | 椎尾詷 | 椎尾詷 | 同期電機 |
日本 | 特許 | 40522 | 第93類 | 大正9年11月25日 | ー | 大正10年11月7日 | 椎尾詷 | 椎尾詷 | 同期電機の改良 |
日本 | 特許 | 120147 | 第190類 | 昭和11年9月26日 | 昭和11年11月30日 | 昭和12年4月28日 | 黒田定義 | 株式会社中央製作所 | 回転式刷子の保持器 |
日本 | 特許 | 120468 | 第191類 | 昭和10年10月14日 | 昭和11年12月28日 | 昭和12年5月21日 | 椎尾詷 | 株式会社中央製作所 | 整流子型変流器に使用する変圧器 |
日本 | 特許 | 123335 | 第191類 | 昭和11年6月27日 | 昭和12年8月6日 | 昭和13年1月13日 | 黒田定義 | 株式会社中央製作所 | 高電圧整流に使用する整流子型変流器に対する同期運転装置 |
日本 | 特許 | 123336 | 第191類 | 昭和11年6月27日 | 昭和12年8月6日 | 昭和13年1月13日 | 黒田定義 | 株式会社中央製作所 | 低電圧用整流子型変流器に対する同期運転装置 |
日本 | 特許 | 139765 | 第192類 | 昭和15年2月2日 | 昭和15年8月15日 | 昭和15年11月12日 | 春日井康部 | 株式会社中央製作所 | 多相整流機器の保護装置 |
日本 | 特許 | 141826 | 第192類 | 昭和15年2月2日 | 昭和15年11月2日 | 昭和16年2月14日 | 春日井康部 | 株式会社中央製作所 | 多相変流器の保護装置 |
日本 | 特許 | 148435 | 第191類 | 昭和16年5月17日 | 昭和16年11月10日 | 昭和17年2月20日 | 春日井康部 | 株式会社中央製作所 | 相数変成器 |
日本 | 特許 | 149431 | 第193類 | 昭和14年12月29日 | 昭和16年11月20日 | 昭和17年3月23日 | 鎌倉喜智二 | 株式会社中央製作所 | 誘導同期電動機の定極性同期化制御装置 |
日本 | 特許 | 149432 | 第193類 | 昭和15年2月12日 | 昭和16年11月25日 | 昭和17年3月23日 | 春日井康部 | 株式会社中央製作所 | 同期電動機の回転位相調整装置 |
日本 | 特許 | 149433 | 第191類 | 昭和15年4月9日 | 昭和16年12月15日 | 昭和17年3月23日 | 春日井康部 | 株式会社中央製作所 | 同期変流器の保護装置 |
アメリカ | 特許 | 2138548 | 363/154 | Dec.12,1936. | ー | Nov.29,1938. | S.KURODA | ー | CONNECTION SYSTEM FOR PRIMARY WINDINGS OF TRANSFORMERS |
アメリカ | 特許 | 2145627 | 363/108 | Dec.12,1936. | ー | Jan.31,1939 | S.KURODA | ー | ROTARY BRUSH TYPE CONVERTER WITH TRANSFORMER |
ベルトーロ整流器に関する出願特許一覧(1918年〜1940年)
販売実績
中央製作所が設立された1936年から生産・販売を開始したベルトーロ整流器は、金属表面処理用電源(めっき、アルマイト用)を始め映写用・バッテリー充電用等幅広い用途で利用され、1968年(昭和43年)に製造を打ち切るまでの32年間における累計生産台数は7,545台に上ります。
金属表面処理業界が戦後の経済復興の一翼を担ったことが、ベルトーロ整流器の需要拡大の追い風となりました。
その後も、電気化学工業用、通信用、映写機の光源点灯用だけでなく、バッテリーの充電用電源としても用途を拡げ、日本の産業の発展に貢献した製品です。
このような歴史が評価され、2023年に一般社団法人電気学会の第16回「でんきの礎」として名古屋大学、名古屋工業大学とともに顕彰されました。

「でんきの礎」の授与を記念した贈呈式
左:名古屋工業大学学長 木下様 、右:㈱中央製作所代表取締役 後藤
これからの歩み
中央製作所は、整流器メーカーかつめっき設備メーカーとして、ベルトーロ整流器と現在のサイリスタ整流器、インバータ整流器を比較する検証を、東京都市大学、株式会社東伸化工と開始しました。
今後も産学連携して、比較研究を進めます。